123冊本その42:「こころ」

 あちこち拾い読みして味わった。
 20年以上ずっと漱石が好きで、作家の中で不動の一位を保っていて、行文の素晴らしさに胸が甘く痺れるようで、なぜ研究の対象に選ばなかったのかと不思議に思う。そうして選ばなくてよかったなあとしみじみ思う。

 漱石の書く女の人が好きだ。この、「こころ」に出てくる「先生」の奥さんも可愛らしくて、穏やかな中に滲み出る色香があって、実にいいと思う。はじめて読んだとき、「いくつ?一つ?二ッつ?」と角砂糖の数を訊く奥さんにうっとりとなって、こんな女性になろうと決心した。決心したのだった。無念。