2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

123冊本その44:「金色夜叉」

寛一お宮のやりとりに大笑い、とマイミクさんが書いていて首を捻っていたけれど、なるほど大笑い。会話の運びがすごく上手い。 面白い。けれど楽しめなかった。登場人物の誰にも感情移入できなかったからかもしれない。愁嘆場と修羅場の見本市のようで読み終…

123冊本その43:「室生犀星詩集」(角川文庫)

よかった。印象に残ったのは「小景異情」「櫻と雲雀」「はる」「秋くらげ」「本」「緑のかげに」「昨日いらつしつてください」等々。他にもいいのがたくさんあった。「小景異情」はかの有名な「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」のフ…

123冊本その42:「こころ」

あちこち拾い読みして味わった。 20年以上ずっと漱石が好きで、作家の中で不動の一位を保っていて、行文の素晴らしさに胸が甘く痺れるようで、なぜ研究の対象に選ばなかったのかと不思議に思う。そうして選ばなくてよかったなあとしみじみ思う。 漱石の書…

その41:「浮雲」

第一回のタイトル「アアラ怪しの人の挙動(ふるまい)」でいやがうえにも期待は高まる。 ソウネーはじめはチット読みにくいんですがネー慣れるとソリャ面白いんですヨー。 台詞がすべてこの調子なのでそれだけでも楽しい。なるほどこれが言文一致というもの…

123冊本その40:「小説神髄」

森鴎外がこの書を評して「あれはあの時出なくてはならぬ書だ」と言ったそうだがむべなるかな。古今東西の書を繙いて、小説全体の体系化を図る剛力ぶりには恐れ入った。 「演劇とは真物並びにある物(リヤリチイ・プラス・サムシング)を擬するものである」「…

123冊本その39:「北原白秋歌集」(岩波文庫)

「全歌集12冊から精選」と表紙にある。はじめの『桐の花』がよかった。巻頭の「桐の花とカステラ」というエッセイもよい。以下引用。 「思ふままのこころを挙げてうちつけに掻き口説くよりも、私はじつと握りしめた指さきの繊細な触感にやるせない片恋の思…

その38:「カインの末裔」

主人公・仁右衛門の「自然から今切り取つたばかりのやうな」「醜く物凄い」ありさまに、自分の中の土臭い獣じみた何かが反応し、興奮のうちに読み終わった。妻を殴り、隣家の子を殴り、隣家の女を殴り(そしてその女と通じ)、村人を殴り、しかし読み終わっ…

123冊本その37:「更級日記」

作者が異様なほど夢を見る。夢見がちという意味ではなく、寝て見る方。これだけ夢が出てくればさぞ研究者の興味を引くだろうと思って調べたら案の定かなりの数の論文があるようなので、今度いくつか読んでみよう。 「源氏物語」の登場人物のうち、作者が憧れ…

その36:「月に吠える」他

ひらがな表記が可愛らしい。「ぴすとる」「しやべる」「おむれつ ふらいの類」等々。フォークの表記法は二つあるんだけど、「ふおうく」の方がいい。「ふほふく」となるともうちょっと実感が湧かないというか。 好きだったのは「竹」「死」「危険な散歩」(…

その35:「夕鶴」

つうの独白と、与ひょうの声がつうに聴こえなくなる箇所を読むと条件反射的に涙が出る。だめだよ与ひょう。なんでもっとつうを大事にしないんだよ。「つうはすかん。つうの意地悪」って何言ってんだよ。与ひょうのばかばか。 私は昔から知人が劇をしたり演奏…

123冊本その34:「方丈記」

すごい。鍛え上げられた美しい身体を見るようだった。対句表現というのはどうしてこんなに心地よいのかしら。痺れた文章を抜き出そうとしたけど多すぎて断念。 「ゆく河の流れは絶えずして」の冒頭だけで「無常を観じた作品」と括ってしまうのは本当に惜しい…

123冊本その33:「方法序説」(岩波文庫)

「方法序説」は「省察」のイントロダクションみたいなものだと聞いたので、ちくま学芸文庫の「省察」と一緒に。 神不在の現代哲学の端緒だと思い込んでたら、神の存在論証にかなりの紙数を割いていてびっくり。「われ思う、ゆえにわれあり」のインパクトが強…

123冊本その32「細雪」

肩の凝らない作品。長いけどスンナリ読める。 四姉妹の性格の書き分けが上手くなされているなあと思った。特に雪子がよい。内気でたおやかなんだけど、芯は案外強くて頑固。こういう人いるいる、と会わなくなって久しい懐かしい友人を思い出したりした。 そ…

その31:「一握の砂」

三行分ち書きというスタイルもあずかって、驚きの読みやすさ。 自己愛が徹底していて清清しいほど。なんせ巻頭に来るのが「我を愛する歌」。しかも、啄木の人となりを知る金田一京助によれば、「歌集『一握の砂』全体が、あるいは「我を愛する歌」と題されて…

123冊本その30:「みだれ髪」

乱れてました。 若さゆえの傲慢が随所に溢れかえっていてやや食傷ぎみ。 「病みませるうなじに繊(ほそ)きかひな捲きて熱にかわける御口を吸はむ」 私が男ならゲンナリする。ちゃんと看病してくれ。 四男につけた名前にびっくり。アウギュストって。母親と…

その29:「千羽鶴」

昔から川端康成の眼が怖かった。今回も、女性を見る視線と茶器を見る視線が完全に等質であるのに慄いた。 谷崎潤一郎より川端康成の方がエロチックだと思う。

123冊本その28:「河童」

面白い。本をつくる工場、驢馬の脳髄が材料なんて随分人をくった話だ。芭蕉が出てきてたとは!いや名前は出てきてないけど、あの有名な句が出てきた。 岩波文庫の解説を読んで胸の詰る思いがした。自殺二日前の心の動き。

その26:「墨東綺譚」

狭斜の巷を我が庭とする男が、女に示した一筋の誠実。なんだろうか。よくわからなかった。わからないのは野暮ですか。 小説の中に小説を入れ込む手法が、ここでどういう効果を挙げているのかもわからなかった。

その27:「五重塔」

今日はどうも調子が悪いなと思ったら、三冊目で大当たり。 「文豪」という言葉の意味を噛み締めた。上手い小説家はこれからも出てくるだろう。しかし「豪」の者と呼ばれる小説家は、果たして。 十兵衛と対立する源太を、あのような気風のいい男に描いたのが…

123冊本その25:「阿Q正伝」

岩波の「阿Q正伝・狂人日記」で。筆で○を書くところがたまらなかった。解説で異色と評されていた「小さな出来事」が一番好きだったところを見ると、魯迅は肌に合わないのかもしれない。 中学の国語の教科書に載ってた「故郷」。なつかしかった。纏足!

123冊本その24:「斜陽」

冒頭のスウプの場面は何度読んでも凄いと思う。 ……少し笑って、 「かず子や、お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」 とおっしゃった。 「お花を折っていらっしゃる」 と申し上げたら、小さい声を挙げてお笑いになり、 「おしっこよ」 とおっしゃ…

123冊本その23:「赤光」

何を措いても「死にたまふ母」(59首)。 死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる あと「地獄極楽図」(11首)のほとんどが「ところ」で終わってるのがなんとなくよかった。 人の世に嘘をつきけるもろもろの亡者の舌を抜き居るところ にん…

123冊本その22:「狭き門」

こういう作品を読むと、キリスト教的思想を土台骨として持っていない私が西欧の作品を味読することができるのか、と不安になる。アリサを痛々しいとは思うけれど、神への道は二人で通ることができぬほど狭いものなのか、という彼女の切実な問いを自分のもの…

123冊本その21:「伊勢物語」

一番好きな話は、高校のときから変わってない。男が、妻の妹に服を送る話。本文の歌より、その本歌の方がよいと思う。 紫のひともとゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞみる 気持ちすごくわかる。好きな人の好きなものは好き。 「およびの血して書きつけけ…

その20:「心中天網島」

里中満智子のマンガ版も借りて併読。あの絵面で心中は迫力ありすぎ。 妻のおさんが男前で、片や旦那は溜め息が出るほどのダメぶりだった。 三五郎という頭の悪い子が出てくるんだけど、たけくらべに出てくるぼけっとした子も三五郎だった。阿呆の系譜みたい…

その19:「世間胸算用」

この類の話はちょっと苦手だ。自分の欲を見透かされる気分。遊女と素人女はどっちがいいかという話はちょっと面白かった。

その18:「うひ山ぶみ」

初学者に勉強の仕方をやさしく教えてくれる本。私には ・わからないところは飛ばし飛ばし読んでいい。 ・とにかく自分で註釈をつくってみること。そうすれば理解が早くなる。 の教えがありがたかった。 中央公論社『日本の名著』では、石川淳が「宇比山踏」…

123冊本その17:「奥の細道」

かっ感想はなしで!下手なこと書いてバレたら死ぬしかない。

「羊を巡る冒険」「蛍・納屋を焼く・その他の短編」

村上文学の世界性について(「内田樹の研究室」より) http://blog.tatsuru.com/archives/001706.php 村上春樹の文学は「父抜き」の文学であるという。 内田氏は「父」を二つの意味で使っているらしい。つまり、世界に偏在しあらゆる場所で機能する原理たる…

その16:「桜の園」

これコメディなんだなあ。 主要な登場人物の誰もがまごつき、泣く。ロパーヒンまでが泣いていた。泣くから悲劇とは限らない。逆もまた然り。 解説によれば、チェホフと劇場側は初演時から演出の点で対立していたらしい。チェホフは自分をオプティミストと称…