123冊本その64:「旅愁」

 執筆の時期(昭和12〜23年)と、「日本の精神文化と、ヨーロッパの物質文化ないしは知性との相克」(新潮文庫解説より)という主題には切り離せない関係があるのだろう。「東洋対西洋」の単純な二項対立が鼻につく箇所もあったけれど、平成の感覚でそんなこと言っても意味がない。作者が相当苦しんで書いてることだけは十分に感じ取れた。
 とにかく描写が繊細で、読んでいて神経が疲れた。あらゆる事象が絶えず主人公の五感を刺激し、心情を侵食してゆく。この書きぶり、誰かに似てるぞ、と思ったら川端康成だった。そういや新感覚派同士なんだった。横光企画、川端シナリオの映画もあるということを知った。
 東洋の精神のよき結晶として、芭蕉の名が何度も出てきたのが何がなし嬉しかった。