その38:「カインの末裔」

 主人公・仁右衛門の「自然から今切り取つたばかりのやうな」「醜く物凄い」ありさまに、自分の中の土臭い獣じみた何かが反応し、興奮のうちに読み終わった。妻を殴り、隣家の子を殴り、隣家の女を殴り(そしてその女と通じ)、村人を殴り、しかし読み終わった後には殴られ打ちのめされたのは仁右衛門なのだという感じが強く残る。
 これが『一房の葡萄』と同じ作者によるものだということが信じられない。あの父っちゃん坊やみたいな顔をした人がこんな作品を。ううむ作家というのはすごいものだなあ。