「ノルウェイの森」

村上春樹の作品には、フォークナーの名前が何度か出てくるらしい。そのことは下のサイトで知った。

 http://kin-saru.cocolog-nifty.com/totugekitai/2005/11/post_e85c.html

 これによると、『納屋を焼く』はフォークナーのその名も『Barn Burning』を意識して書かれたものであるらしい。作中で主人公に「フォークナーの短編集」を読ませるとはにくい。こういう仕掛けは好きだ。

 『ノルウェイの森』にもフォークナーの作品が取り上げられているとアマゾンの書評にあったので、いい機会だと思い読んでみた。
 確かに文庫版の下巻109頁に『八月の光』は出てくるけれど書名だけだった。むしろ重要なのは何度も出てくる『魔の山』(トーマス・マン)だろう。「僕」が直子のいる療養所を訪れるという設定自体が明らかに『魔の山』を意識したものだし、もしかすると「時間の感覚がひきのばされて狂ってしまった」という「僕」の感懐も、『魔の山』にある有名な言葉、「時間は伸び縮みする」を下敷きにしているのかもしれない。
 もちろんこんなことはすでにファンや研究者によってくり返し指摘されているのだろう。両者の関係についての堅実な論考が読んでみたいと思った。

 話自体は、読むのがものすごくつらかった。いい意味で。でもそれはいま自分が祖母の死でナーバスになっているからかもしれない。緑の父がキウリを食べる場面がよかった。