123冊本その51「谷間のゆり」

 岩波文庫約450頁分の書簡。というものすごい形式。「こころ」なんて目じゃないという長さ。
 しかしここに描かれたヒロインの魅力というものは、書簡という形式でしか書き表せなかったという気もする。純潔の尊さは、拒まれた当の本人によって、怨嗟と賛嘆を込めて語られて初めて生き生きと立ち現れてくるのではないか。この小説がいわゆる「神の視点」によって語られた場合を想像すると、バルザックが採った手法がいかに巧みであったかに気づく。そしてさらに、最後の数頁の返信がもたらす効果!にくいなあと思う。

 これで、123冊本のフランス小説は全部読み終わった。後読んでみたいのはポール・クローデルの「繻子の靴」とプルーストの「失われた時を求めて」。それにしても、この前も書いた気がするけど、フランス小説のこの冷たい感触はなんだろう?「他者これすなわち敵」といわんばかりの、他者への根源的な嫌悪みたいなものを感じる。私だけかしらん。