123冊本その54:「人間の絆」(新潮文庫)

 全4巻。とにかく惨めで暗くて、主人公フィリップの卑屈と紙一重の人の善さが厭わしくて、早く終われよかしと念じながら読んだ。
 が、最後の数十頁を読んでいて、自分がフィリップのことを好きになっていることに気が付いてちょっと驚いた。3巻半の惨めさが、彼の諦念を帯びた優しさを説得力のあるものにしていた。もう読むことはないだろうけど、長距離走の充実感は確かにある。
 訳は性に合わなかった。岩波にすればよかった。こなれてるのはいいんだけど、「ヘビーをかける」とか「七里ケッパイ」とかが頻出するとなんだかモゾモゾして落着かない。