123冊本その68:「若き哲学徒の手記」

 昭和16年、気比丸沈没事故により22歳で亡くなった弘津正二の日記。
 読んでいる間は、この沈没事故が持つ悲劇性を努めて忘れようとした。かわいそうに、なんて思って読まれても向こうだって困るだろう。日記を書いた時点では事故は起きていないんだし。
 妹のひいちゃんや弟の啓ちゃんのことを書くとき、普段の硬質な文体、張り詰めた語調がゆるゆるとほどけて、兄さんらしい気遣いが前面に出てくる。そこがよかった。