№23 加藤周一「日本文学史序説 下」(ちくま学芸文庫
 史観というものを自らのうちに持たない私には、この本を評価する資格も批判する資格もまるでない。けれど、こっそり言わせてもらうなら、とても感動した。自分の傾倒ぶりを危うく感じてしまうくらい感動した。こんな堅固な思考の城に入り込んでしまって、この先ここから出てゆくことが出来るんだろうか。
 とりあえずメモ。
・元々理系の出身だと知ってなんだかとても納得した。明快。理路整然。「○○の文学には○つの特徴がある。第一に……、第二に……、」という書き方を好んでする。
明治維新の前後を「断絶」ではなく「持続」と見るのがこの本の主眼の一つ(であるらしい)。
・「全体よりも部分を、抽象的な構造よりも具体的な対象の個別性を貴ぶ」というのが日本文学を考える上でのキーワード(であるらしい)。
自然主義へのまなざしはかなり辛辣(下巻305頁)。
・谷崎の『細雪』を随分と褒めていたので少し驚いた。「戦時中の日本文学の数少ない傑作の一つであり、日本の小説史上の里程標の一つでさえもあった」(下巻415頁)って、そんなに?
・文章が上手くなるためには漢文の素養が必須なんだなあと痛感した。私の好きなあの人もこの人も……。