123冊本その11:「雁」

 語り手は「僕」であると最初に示されるものの、話のほとんどが超越的(?)な視点から語られていて(「僕」の知り得るはずのない事柄が縷々語られていて)、読み手に不思議な感じを起させる。解説(新潮文庫)で「視点の混乱」と称されているこの書きぶりが、自分には逆に新鮮に思えた。なぜこのような叙述の形式を取ったのか。
 お玉が末造の思いものになった後、父親に会いに行く場面の描写が好きだ。傘が上手く使われている。
 実在の人物の名前を出して、「隣の福地さんなんぞは、……内証は火の車だ」などと書いてあるのが面白かった。