2006-01-01から1年間の記事一覧
二人の女性と主人公とのそれぞれの恋の在り方に興味を持った。 心理描写の細やかさは特筆に価する。ちょっとしたことで相手に夢中になったり幻滅したりする、恋愛の滑稽とさえいえる心模様が実に上手く捉えられていた。 この時代の人のナポレオンへの思い入…
フランスの作家というのはどうしてまあ誰も彼も冷徹なんだろうか。 不倫をためらう虚栄心だとか内心の熱が冷めるほど激しくなる振舞いだとか場当たり的な信仰心だとか、一つ一つの心理描写はさもありなんと思わせるのに、全体的に見るとエマ(ボヴァリー夫人…
岩波文庫で読んだ。1957年初版発行だから女性の言葉遣いなど、言い回しが少し古びていて、それが自分にはよかった。でも新潮社版も気になる。 これにもたくさんの死が描かれていていてナーバスの極みに達してしまった。しまった今日は本の選択がまずかった。…
村上春樹の作品には、フォークナーの名前が何度か出てくるらしい。そのことは下のサイトで知った。 http://kin-saru.cocolog-nifty.com/totugekitai/2005/11/post_e85c.html これによると、『納屋を焼く』はフォークナーのその名も『Barn Burning』を意識し…
フォークナーによる〈ヨクナパトーファ譚〉の中の一冊。 参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%AF%E3%83%8A%E3%83%91%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A1%E9%83%A1 この題名には皮肉が込められている、のだろうか。殺人や強姦といった世の…
「理想が現実に触れて次第に崩れて行く一種のさびしさと侘しさ」(本文より)を淡々とした描写によって浮かび上がらせている作品。なのだろうか。 文体が性に合わないのか、読むのに随分苦労した。雨の中、両肩がじっとり濡れるのを我慢して歩くような。 題…
すごい。最後まで読んで茫然自失。いい意味であらすじが書けない。 話の展開もすごいけど、文章は洒落てるし、笑いもバッチリあるし、何より女性が魅力的なのがいい!結局自分はいい女が出てきたら褒めてるんじゃないかと心づいた。漱石然り一葉然り。 作品…
寛一お宮のやりとりに大笑い、とマイミクさんが書いていて首を捻っていたけれど、なるほど大笑い。会話の運びがすごく上手い。 面白い。けれど楽しめなかった。登場人物の誰にも感情移入できなかったからかもしれない。愁嘆場と修羅場の見本市のようで読み終…
よかった。印象に残ったのは「小景異情」「櫻と雲雀」「はる」「秋くらげ」「本」「緑のかげに」「昨日いらつしつてください」等々。他にもいいのがたくさんあった。「小景異情」はかの有名な「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」のフ…
あちこち拾い読みして味わった。 20年以上ずっと漱石が好きで、作家の中で不動の一位を保っていて、行文の素晴らしさに胸が甘く痺れるようで、なぜ研究の対象に選ばなかったのかと不思議に思う。そうして選ばなくてよかったなあとしみじみ思う。 漱石の書…
第一回のタイトル「アアラ怪しの人の挙動(ふるまい)」でいやがうえにも期待は高まる。 ソウネーはじめはチット読みにくいんですがネー慣れるとソリャ面白いんですヨー。 台詞がすべてこの調子なのでそれだけでも楽しい。なるほどこれが言文一致というもの…
森鴎外がこの書を評して「あれはあの時出なくてはならぬ書だ」と言ったそうだがむべなるかな。古今東西の書を繙いて、小説全体の体系化を図る剛力ぶりには恐れ入った。 「演劇とは真物並びにある物(リヤリチイ・プラス・サムシング)を擬するものである」「…
「全歌集12冊から精選」と表紙にある。はじめの『桐の花』がよかった。巻頭の「桐の花とカステラ」というエッセイもよい。以下引用。 「思ふままのこころを挙げてうちつけに掻き口説くよりも、私はじつと握りしめた指さきの繊細な触感にやるせない片恋の思…
主人公・仁右衛門の「自然から今切り取つたばかりのやうな」「醜く物凄い」ありさまに、自分の中の土臭い獣じみた何かが反応し、興奮のうちに読み終わった。妻を殴り、隣家の子を殴り、隣家の女を殴り(そしてその女と通じ)、村人を殴り、しかし読み終わっ…
作者が異様なほど夢を見る。夢見がちという意味ではなく、寝て見る方。これだけ夢が出てくればさぞ研究者の興味を引くだろうと思って調べたら案の定かなりの数の論文があるようなので、今度いくつか読んでみよう。 「源氏物語」の登場人物のうち、作者が憧れ…
ひらがな表記が可愛らしい。「ぴすとる」「しやべる」「おむれつ ふらいの類」等々。フォークの表記法は二つあるんだけど、「ふおうく」の方がいい。「ふほふく」となるともうちょっと実感が湧かないというか。 好きだったのは「竹」「死」「危険な散歩」(…
つうの独白と、与ひょうの声がつうに聴こえなくなる箇所を読むと条件反射的に涙が出る。だめだよ与ひょう。なんでもっとつうを大事にしないんだよ。「つうはすかん。つうの意地悪」って何言ってんだよ。与ひょうのばかばか。 私は昔から知人が劇をしたり演奏…
すごい。鍛え上げられた美しい身体を見るようだった。対句表現というのはどうしてこんなに心地よいのかしら。痺れた文章を抜き出そうとしたけど多すぎて断念。 「ゆく河の流れは絶えずして」の冒頭だけで「無常を観じた作品」と括ってしまうのは本当に惜しい…
「方法序説」は「省察」のイントロダクションみたいなものだと聞いたので、ちくま学芸文庫の「省察」と一緒に。 神不在の現代哲学の端緒だと思い込んでたら、神の存在論証にかなりの紙数を割いていてびっくり。「われ思う、ゆえにわれあり」のインパクトが強…
肩の凝らない作品。長いけどスンナリ読める。 四姉妹の性格の書き分けが上手くなされているなあと思った。特に雪子がよい。内気でたおやかなんだけど、芯は案外強くて頑固。こういう人いるいる、と会わなくなって久しい懐かしい友人を思い出したりした。 そ…
三行分ち書きというスタイルもあずかって、驚きの読みやすさ。 自己愛が徹底していて清清しいほど。なんせ巻頭に来るのが「我を愛する歌」。しかも、啄木の人となりを知る金田一京助によれば、「歌集『一握の砂』全体が、あるいは「我を愛する歌」と題されて…
乱れてました。 若さゆえの傲慢が随所に溢れかえっていてやや食傷ぎみ。 「病みませるうなじに繊(ほそ)きかひな捲きて熱にかわける御口を吸はむ」 私が男ならゲンナリする。ちゃんと看病してくれ。 四男につけた名前にびっくり。アウギュストって。母親と…
昔から川端康成の眼が怖かった。今回も、女性を見る視線と茶器を見る視線が完全に等質であるのに慄いた。 谷崎潤一郎より川端康成の方がエロチックだと思う。
面白い。本をつくる工場、驢馬の脳髄が材料なんて随分人をくった話だ。芭蕉が出てきてたとは!いや名前は出てきてないけど、あの有名な句が出てきた。 岩波文庫の解説を読んで胸の詰る思いがした。自殺二日前の心の動き。
狭斜の巷を我が庭とする男が、女に示した一筋の誠実。なんだろうか。よくわからなかった。わからないのは野暮ですか。 小説の中に小説を入れ込む手法が、ここでどういう効果を挙げているのかもわからなかった。
今日はどうも調子が悪いなと思ったら、三冊目で大当たり。 「文豪」という言葉の意味を噛み締めた。上手い小説家はこれからも出てくるだろう。しかし「豪」の者と呼ばれる小説家は、果たして。 十兵衛と対立する源太を、あのような気風のいい男に描いたのが…
岩波の「阿Q正伝・狂人日記」で。筆で○を書くところがたまらなかった。解説で異色と評されていた「小さな出来事」が一番好きだったところを見ると、魯迅は肌に合わないのかもしれない。 中学の国語の教科書に載ってた「故郷」。なつかしかった。纏足!
冒頭のスウプの場面は何度読んでも凄いと思う。 ……少し笑って、 「かず子や、お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」 とおっしゃった。 「お花を折っていらっしゃる」 と申し上げたら、小さい声を挙げてお笑いになり、 「おしっこよ」 とおっしゃ…
何を措いても「死にたまふ母」(59首)。 死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる あと「地獄極楽図」(11首)のほとんどが「ところ」で終わってるのがなんとなくよかった。 人の世に嘘をつきけるもろもろの亡者の舌を抜き居るところ にん…
こういう作品を読むと、キリスト教的思想を土台骨として持っていない私が西欧の作品を味読することができるのか、と不安になる。アリサを痛々しいとは思うけれど、神への道は二人で通ることができぬほど狭いものなのか、という彼女の切実な問いを自分のもの…